設立趣旨

1 趣  旨

(1)活動を開始した背景

 ハンセン病患者を社会から療養所へ隔離するという思想は全世界的にみられ、我が国もそれに倣いハンセン病療養所を設置しました。第二次世界大戦後にはプロミン等による治療法が世界中で普及し、1963(昭和38)年第8回国際らい会議(リオデジャネイロ)は「この病気に直接向けられた法律は破棄されるべきである…無差別の強制隔離は時代錯誤であり、廃止されなければならない」とし、この時期の前後にはそれまでハンセン病患者の隔離政策を行っていた諸外国は段階的にこれを廃止しました。一方我が国は1996(平成8)年に「らい予防法」を廃止するまで、1907(明治40)年制定の「癩予防ニ関スル件」を起点とする約90年に及ぶ隔離政策を継続し、入所者等は世界でも類を見ない人権侵害を受け、社会からの偏見・差別の中におかれました。2001(平成13)年「らい予防法違憲国家賠償訴訟」にて熊本地裁は「遅くとも昭和351960)年には「らい予防法」の隔離規定はその合理性を支える根拠を全く欠く状況に至っており、その違憲性は明白となっていた」とし、当時の厚生省及び国会に対して国家賠償法上の違法性を認定する判決を下しました。国は同判決に対する控訴を断念し、同判決は確定しました。

 この熊本地裁判決確定以降、ハンセン病問題への社会の関心は格段に高まり、多くの来訪者がハンセン病療養所を訪れるようになりました。来訪者は療養所内に存在する隔離の歴史を語る歴史的建造物や各種資料に触れ、入所者から直接、療養所内での過酷な生活や社会からの偏見・差別の体験を聞くことを通してハンセン病療養所こそが生きた人権教育・人権学習の場であると認識するようになりました。また、入所者一人一人の苦難を乗り越えようとする道程は、現代社会において様々な苦悩を抱える人々に共感と勇気を与え続けています。

 

(2)活動を推進する上での課題

しかしながら、このような隔離政策による過酷な状況を力強く生き抜いたハンセン病療養所入所者の平均年齢は85歳を超え、近い将来、我が国におけるハンセン病と療養所の歴史を体験者として証言できる者が存在しなくなることが予想されます。諸外国の中には回復者等の子孫がこれらの歴史を語り継いでいる例がありますが、我が国における隔離政策は療養所内で子どもを産み育てることを許さなかったため(断種・堕胎)、このような形での歴史の継承も困難です。

また、療養所へ隔離されるハンセン病患者を直接見聞し、これらの歴史を療養所に隣接する地域として体感してきた周辺地域の人々にも高齢化の波が容赦なく押し寄せています。しかしながら、これらの歴史を療養所のみでなく、その周辺地域を含めた歴史として学術的に検証する作業は未だ実践されていません。

 

(3)現在の活動状況

国立療養所長島愛生園及び邑久光明園(以下、両園)の設置されている岡山県では両園関係者・両園入所者等を構成員とする「ハンセン病療養所の将来構想をすすめる会・岡山」(以下、すすめる会・岡山)が2011(平成23)年3月に両園それぞれの将来構想を作成し、現在に到るまで両園の将来像について協議を続けています。2013(平成25)年9月には入所者の高齢化に対する危機感と、人権教育・人権学習の場としての療養所の永久保存への期待感により両園入所者を中心として「長島の世界遺産登録を目指す準備会」が結成されました。2017(平成29)年7月、すすめる会・岡山は両園それぞれの将来構想に「世界遺産登録に向けての取り組み」を新たな施策として追加記載し、岡山県・瀬戸内市を含む全ての構成員が一体としてこの取り組みを推進することとなりました。

 

(4)活動を推進する上での法人化の必要性

このような経緯を経て、すすめる会・岡山はこの取り組みの推進母体として最適な組織の検討を行いました。結果として、

・社会的信用を得るためには任意団体では限界があるため法人化し、合意形成プロセスと活動資金の透明化を図ること

・非営利を目的とする法人とすること

・ハンセン病問題に関心のある多くの人々の共感を得られ、この取り組みに直接参加できる機会のある法人であること

  という観点から、推進母体として特定非営利活動法人が最適な法人であるとの結論に至りました。

 

(5)結語

ここに、我々はハンセン病療養所内に存在する建造物群等を「ユネスコ世界文化遺産」として、ハンセン病回復者等が生きた証を示す資料等歴史的記録物を「ユネスコ世界の記憶」としてそれぞれ登録することを目指し、特定非営利活動法人ハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会を設立します。これらの取り組みを通じて、ハンセン病患者に対する隔離政策がもたらした人権侵害と地域社会への影響を検証するとともに、ハンセン病に対する偏見・差別の中にあっても力強く生き抜いて来た回復者等の営みを後世に伝え、世界中のハンセン病回復者等の真の名誉回復を図り、もって人類の抱える様々な偏見・差別の解消に寄与することを目的とすることを宣言します。事業展開にあたっては、療養所の歴史を地域の歴史として検証することを通して入所者と地域の間の真の相互理解の実現に努めますので、多くの皆様にご支援いただきますようお願い申し上げます。

 

2 NPO法人申請に至るまでの経過

2010(平成22)年6月  すすめる会・岡山設立

2011(平成23)年3月  すすめる会・岡山が長島愛生園及び邑久光明園それぞれの将来構想を策

2013(平成25)年9月  長島の世界遺産登録を目指す準備会結成

2014(平成26)年11月 1回ハンセン病療養所の世界遺産登録を考える公開勉強会開催

2015(平成27)年4月  全国ハンセン病療養所入所者協議会(全療協)が瀬戸内3園(長島愛生園・邑久光明園・大島青松園)が世

            界遺産登録運動を行うことを支持

2015(平成27)年8月  ハンセンボランティアゆいの会が長島愛生園内の「十坪住宅」修復保存運動を開始

2015(平成27)年10月 2回ハンセン病療養所の世界遺産登録を考える公開勉強会開催

2017(平成29)年1月  すすめる会・岡山がNPO法人を世界遺産登録運動の推進母体とすることを承認

2017(平成29)年4  すすめる会・岡山がNPO法人ハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会の設立準備委員会の設置を承認

2017(平成29)年7月  すすめる会・岡山が長島愛生園及び邑久光明園それぞれの将来構想に「世界遺産登録へ向けての取り組み」

            を新たな施策として追加記載することを承認

2017(平成29)年7月 第1NPO法人ハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会設立準備委員会開催

2017(平成29)年8月 第2NPO法人ハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会設立準備委員会開催

2017(平成29)年10月  3NPO法人ハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会設立準備委員会開催

2017(平成29)年10月  すすめる会・岡山がNPO法人ハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会の設立を承認

2017(平成29)年11 NPO法人ハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会設立総会開催

 

 平成29年11月14日

 

  特定非営利活動法人ハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会 設立(代表)者 原 憲一

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NPO法人ハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会設立趣旨書
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