私たちからのメッセージ
–新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者や関係者への誹謗中傷について-
現在、世界中の人々が新型コロナウイルス感染症の感染拡大の危機に直面しています。お亡くなりになった方々とそのご家族に心よりお悔やみ申し上げます。また、現在治療中の方々の一日も早い回復をお祈りすると共に、日々懸命に業務に取り組まれている関係者の皆さまに敬意を表します。
私たちNPO法人ハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会は、高齢化の進むハンセン病療養所入所者、回復者の皆さんの自らの経験を決して繰り返して欲しくないという強い願いと共に、ハンセン病療養所とそこで生活されてきた人々の歴史を世界遺産として後世に語り継ぐ運動に取り組んでいます。
社会では、しばしば比較されるハンセン病と新型コロナウイルス感染症ですが、両者は原因、発病のメカニズム、症状、治療法の有無など全く異なります。よって、両者を単純に比較することはできませんが、今、ただ一つハンセン病の歴史を語り続けることを使命とする私たちがお伝えしたいことがあります。それは「患者さんや関係者に対する疾病差別は決してあってはならない」ということです。
私たちは誰しも病気になりたくありません。そして感染症という病気の原因となる細菌やウイルスは私たちの目には見えません。ヒトからヒトへの感染が明らかになっている新型コロナウイルス感染症において患者と関係者からできるだけ距離をおきたい、という気持ちは十分に理解できます。また、社会的距離の確保や「三密」の回避は、今後も感染の状況に応じて意識し続けるべき行動基準です。
しかし、誤った知識や見解による過度な反応は噂を呼び、偏見を生み、差別につながります。私たちはこれらのことをハンセン病隔離政策から学んでいます。
患者が恐れるのは病気とそれに伴う差別と人権蹂躙です。患者が差別を恐れるがあまり、病気を隠し、今回の感染拡大が更に長期に渡り収束しなければ、私たちの社会的経済的な活動は益々の困難に直面するでしょう。
「歴史は繰り返す」ローマの歴史家クルティウス=ルーフスは言います。私たち人類には今までも新たな感染症の出現に直面し、その脅威を乗り越えてきた歴史があります。
-患者さんが安心して治療に専念し、家族の方がそれを十分サポートできるように。そして、医療従事者が存分に活躍できるように-
ハンセン病の歴史を学ぶことにより、少しでも病気による偏見や差別が和らぐのであれば非常に有り難く、そして私たち一人ひとりが新型コロナウイルス感染症という未知の感染症を正確に知り、正しく行動すれば、それに伴う偏見、差別と人権蹂躙を生まない社会の創造に寄与できる。これがハンセン病回復者と私たちからのメッセージです。
2020(令和2)年5月18日
岡山県瀬戸内市邑久町虫明6253番地
特定非営利活動法人
ハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会